渋谷「ハイファイ・レコードストア」年始恒例のプレゼントCDを制作させていただくようになって、もう何年になるだろうか。年末、12月の半ばに選曲して、録音・編集して納入、年が明けて1月、ハイファイ・レコードストアの営業開始の日からプレゼントがスタートする。
そのキャンペーンの開始に合わせて、コメントを毎年求められる。毎年、ほぼ似たようなことを書いているけれど、それでも毎年、あらためて書くようにしている。
さらにキャンペーンの終わる一月最終週に送付されるハイファイのメールマガジンには何年か前より、選曲リストを掲載させていただくようになった。
こうした文章はもちろん、キャンペーンの終了とともに役目を終えて消えてしまうが、
いま、なぜか気まぐれに、その文章をしばらく残しておきたい、と考えたので、この場に掲載しておく。以下。2026年2月。
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小西康陽です。毎年、この『これからの人生。」というCDの選曲をさせていただくのは、ぼく自身にとっても大きな楽しみであり、同時に過ぎ行くこの一年を振り返るきっかけにもなっています。
いつもこのCDは、ふだん部屋でレコードを聴いているときに、あれ、こんな曲が入っていたっけ、あるいは、ん?、これってこんなに素晴らしいレコードだったっけ、と一瞬、こころを奪われてしまった音楽を書き留めておき、それをあらためて聴き返し、ならべてみる、という作り方で選曲・編集をおこなっています。そんなやり方で制作するときにいちばん大切なのは、まず「ただぼんやりと、なんとなくレコードを聴く」ということなのですが、2025年は生活が慌しかっただけでなく、ちょっとレコードを買い過ぎて、ただ消化するのに追われていたようで、それを大きく反省しています。
音楽の好みというのは、毎日すこしずつ変わっていくものなのか、それともなにか素晴らしいレコードと出会うとか、最高のパフォーマンスに立ち会うとか、誰かの言葉につよく影響されるとか、なにかきっかけがあって、そこから大きく変わっていくものなのか。たぶん、どちらもあることなのでしょう。
それにしても、この一年は本当にあっという間に過ぎていたように思います。2026年も皆様にとって良い音楽との出会い、素敵なレコードとの出会いがありますように。
●これからの人生 2026 トラックリスト
01. Horst Sohm / Bach; Suite pour luth N°1 en mi mineur BWV 996
たぶんドイツ出身のクラシック・ギター奏者のデビュー・アルバム。昨年はバッハを演奏しているギタリストのレコードをたくさん買い求めました。
02. Chet Baker / Arrivederci
CDはスタートしたばかりなのに、いきなり「また逢う日まで」というタイトルの曲を選んでしまいましたが、年末に選曲、編集したので「さよなら2025年」のような気分だったとお考えください。チェット・ベイカーがイタリアに逗留していた時期に数多く参加した映画音楽のレコーディングを集めたアルバムの中の1曲です。
03. Claude Garden / Le Grisbi 「グリズビーのブルース」
これも映画音楽のテーマ。ジャック・ベッケル監督、ジャン・ギャバン主演の『現金に手を出すな』の中で主演のギャバンが馴染みのレストランでたびたびジュークボックスにコインを入れて聴く「グリズビーのブルース」です。これはオリジナル・ヴァージョンではなく、フランスのポピュラー音楽界でハーモニカ奏者と言えばこの人、という存在だったクロード・ガルダンによるカヴァー・ヴァージョン。なんとなく買ってみたら、アルバムの多くの曲でコーラスをフィーチャーしていて思わぬ拾い物でした。この『現金に手を出すな』という映画、「現金」と書いて「げんなま」と読ませるのですが、日本でも大ヒットした映画で、この曲も当時はたいへん人気があったようです。いま60代半ばのぼくには、夢と憧れと「ひりひりするような気分」を与えてくれる、最高の映画です。もちろん若い方にはもっと楽しめる作品があると思いますが、ぼくと年齢の近い方には「小さな声で」お薦めしたい傑作映画です。
04. Al Baculis Singers & Orchestra / I Concentrate On You
夜7時、「ハイファイ」の更新をチェックした後、夜10時、と言えば岐阜の「OPUS」です。そこで買ったカナダのライブラリー・ミュージックでおなじみ、アル・バックリス・シンガーズの4曲入り7インチepから、コール・ポーターの曲をお届けします。けっしてお安くないレコードでしたが、試聴を聴き終える頃には音楽の素晴らしさにねじ伏せられておりました。
05. Shepherd’s Horn / いつくしみ深き友なるイエス
広島の教会を中心に活動されていた、と思しき男声コーラスのカルテットによる1970年代前半の自主制作アルバム『アレルヤ』より。ゴスペル、というと先入観でつい重心の低いハーモニーを思い浮かべてしまいますが、このグループはThe Hi-Lo’s とかダークダックスに近いヴォーカル・レンジを備えた繊細な合唱を聴かせてくれます。
06. Paul Desmond with Modern Jazz Quartet / Jesus Christ Super Star
大好きなアルト・サックス奏者、ポール・デスモンドがMJQと組んだライヴ・アルバムから。「出落ち」みたいな選曲ですが、何食わぬ顔で演奏しています。
07. Cornelis Vreeswijk / Apollinaire
オランダ出身、スウェーデンを中心にヨーロッパで活躍した歌手、コーネリス・フリースウェイクが1970年にリリースした2枚組アルバムから。ジャケットを見れば、あ、コレか、と思う方も多いのでは。
08. Glenn Gould 「J.S.バッハ 平均律クラヴィーア曲集」12 ヘ短調・前奏曲
ごぞんじ「グレン・グールドのバッハ」、です。プレリュードとフーガでワンセットですが、ここでは前奏曲のみ。ぼくがシンガー・ソングライターのレコードに求めるものを、グールドがひとりピアノで弾くバッハに見出している、というのは、ここだけの話として書いておきます。
ところでこのアルバム、世界各国でリリースされていますので、ジャケット・デザインにも数多くのヴァージョンがありますが、ぼくは15年ほど前、岡山の中古レコード店で入手した1960年代に「日本コロムビア」よりリリースされた2枚組の余白の多いジャケットがお気に入りです。というより、このデザインでこのアルバムを知ってしまったので、記憶の中で定着してしまったような感じです。
09. Ella Jenkins / The Hi-De-Ho Man
去年の秋に入手したペギー・シーガーとイーワン・マッコールの『Cold Snap」というアルバムのジャケット・デザインがシンプルながらカッコよくて、そこから米国の「Folkways」レコードのジャケット・デザインのことをネットで調べていたら、ああ「ハイファイ」にもコーナーがあったな、と思い出し、ついでに試聴してみて欲しくなった一枚。この子供たちの、その後が気になります。
10. Joe Pass / Walkin’ Up
10年以上も前に渋谷の「レコファン」で大量に買ったまま忘れていた中古レコードが、部屋の片隅からまとまって出てきて、そのチョイスが我ながら面白かったのですが、これはその中の1枚。編曲とピアノでクレア・フィッシャーが参加したアルバム。
11. Alan Price Set / Biggest Night Of Her Life
昨年、逝去された音楽評論家、というより永遠の音楽少年、みたいだった山名昇さん。あるとき、仕事でロンドンに3週間ほど行く、と話したら、1万円札を渡されて、もしかしたら2枚だったかも、、それでアラン・プライスの最初の2枚のソロ・アルバムを買ってきてくれ、と頼まれて、、けっきょくロンドンではどちらのアルバムにも出会えず、お金も返さないまま「餞別」として受け取ってしまったのですが。山名さんの訃報を聞いた直後、なぜかレコード棚から出てきた2枚のアルバム。でも、ぼくのこのアルバムはUS盤なので、山名さんは納得しなかったかも。なぜかランディ・ニューマンの曲を12曲中5曲も取り上げているアルバム。この曲もそのひとつです。
12. Ronny & The Daytonas / Goodbye Baby
ロニーとデイトナズのシングルをコンプリートしたい、と思っていますが、なかなか揃わない。お聴きの通り、甘酸っぱい名曲が多くて素晴らしいのです。でも国内だと「G.T.O.」と「Bucket’T’」と「Sandy」ばかりで。海外からまとめて買ってしまう、というのもアリですが、こうしてチマチマと集めているのがなかなか楽しいのです。ちなみに「Sandy」の7インチ・シングルはB面のインストが最高なのでアルバムをお持ちでも買うべし、です。
13. Bud & Travis / Truly do
昨年秋、シャンソン歌手の聖児セミョーノフさんと神戸と京都を回った弾き語りの旅は楽しく、思い出に残るものでした。神戸で昼と夜、2カ所のクラブで演奏した翌日、京都までドライヴする日、聖児さん御一行と待ち合わせは昼の12時半、なのにホテルは午前10時チェックアウトで、「仕方なく」三宮の中古レコード店へ。ところがレコード店も11時開店。ではとりあえず喫茶店にでも、と老舗の「エヴィアン」に入ったところ、なんと寒空はだかさんと遭遇!こんなコトってあるんですね。去年は東京都内の名画座でもあまりお目にかからず、なのにこの神戸で、こんな朝早くにお目にかかるなんて。もちろん最近観た映画の話を交換して、あっという間に11時。その神戸「ハックルベリー」で入手したバッド&トラヴィスのアルバム。この曲はザ・フリートウッズのアルバムで取り上げられていたので知っていました。
14. Ben Webster / Tenderly
こういうのは大人が聴くもの、と思っていましたが、自分も大人になったのでしょうか。
15. Rob Galbraith / I Remember Me
この人のデビュー作『Nashville Dirt』は昔からシンガー・ソングライターのマニアの間では知られていたアルバムですが、ぼくは昨年入手しました。アルバムの中で2曲、ヴィブラフォンを加えたアンサンブルで演奏している曲がとくにお気に入りで、誰がヴァイブを演奏しているんだろう、とクレジットをたしかめたところ、作者のロブ・ガルブレイスが自らプレイしている、と知りました。
16. Bob Zentz / Time, Friend, Time
このレコードは高校時代、札幌に最初にできた輸入レコード専門店「DISK-UP」のシンガー・ソングライターの棚に入っていて、そこで見かけたのが最初だったはず。ああ、また地味な弾き語りのレコードなんだろうな、と思いながら、棚に戻して。それから50年、いまはこういう音楽が愛おしくて。これは京都の「レコードショップgg」というお店の通販で入手しました。
17. Norma Tanega / Beautiful Things
あのボブ・クリューのレーベルからレコードを出していたノーマ・タネガの幻の?セカンド・アルバムが再発されて、これはその中の1曲です。一昨年、ぼくがアルバムを出したときにインタヴューしてくださった松永良平さんがうれしそうにノーマ・タネガのTシャツを着ていらして、そのときにセカンド・アルバム再発のことを教えていただきました。
18. チャールズ清水 / 続ける
関西のバンド、「ソー・バッド・レヴュー」の鍵盤奏者だったチャールズ清水さんにソロ・アルバムがあったことを不勉強にして知りませんでした。小編成のリズム・セクションを従えたライヴ盤は、まるで「ナニワのベン・シドラン」といった趣き。ちょうどこのレコードをスタジオで流していたら、ご挨拶にきてくださった大江田信さんが、かつて「春一番コンサート」に出演したあと、東京に戻ってくるクルマの中でこのチャールズ清水氏と一緒になって、いろいろと話を聞かされた、というので、俄然興味が湧きました。
19. François Castet / Suite En Ré Majeur N° 1 Pour Cello Solo BWV-1007 / Prelude
おなじみ、バッハの無伴奏チェロ組曲をクラシック・ギターで演奏しているフランスの音楽家のアルバムより。
20. びび&テニスコーツ / タマシー
これは長谷川正樹さんの「VIEW レコード」で買った1枚。ヴォーカルを取っている少年は歌っているのか、歌わされているのか。ちょっと気になるトラックです。皆さま、今年もありがとうございました。